不動産取引論2 仲介とは何か
2015/08/07コラム
不動産取引論 仲介とは何か2
2.あなたは仲介業者を信じますか。
まずもって、私は不動産業に携わる者には充分な敬意を払うつもりであるし、その労苦を理解しているつもりであることを明かにしておきたい。ただし無限定ではなく警戒感も持ち、必ずしも全てが善人でもないことも知っているつもりである。私はその業務について現状を批判的に見る部分もあると同時に、その社会的地位の向上を願い、より業務が透明性を増し社会的効用をさらに増進させる高度なサービス業として発展することを願う一人である。また私は、不動産鑑定士としての諸業務に携わると共に、小規模ながら資産の管理にも意を用いる立場であることも明かにしておく。これは私の意見が、偏見や自己の利益を図るためだけに述べているのではないことを知っていただきたいからである。私も末端ながら仲介業務から不動産についての経験を始めた者であることも述べておく。
先に述べた通り仲介行為の本質については必ずしも法的、社会的に明確になっているとは言えないのが日本の現状である。いったい双方代理と仲人口を宅地建物取引業法という特別法で認めた日本の不動産の取引慣行は、現代社会の変容の中でどういう問題をおこし、今後どうあるべきなのであろうか。
以下の例について考えてみよう。
1.Aはその所有する土地を3000万円で売りたいとBに仲介を依頼した。BはCという買い希望者を見つけた。
2.CはBに2900万円なら買うと言いAに交渉するよう求めた。
3.BはAにCという買い手を見つけたが2850万円までしかだせないと言っていると述べ、最近の近隣の相場から3000万円では売れないし、買い手はめったにないから2900万円くらいまで値引きしてくれるよう求めた。
4.Aは50万引きの2950万円までは値引きしてよいと言い、それ以下では売らないから他の買い手を探すようBに求めた。
5.BはCのところへ行き、Aは値引きに応じずせいぜい30万くらいしか引けないと言っている 。結構良い物件なので他に買い希望者もいるがCを優先しているので、もう少し出してほしいと言い、尽力して50万引きの2950万円まで下げさせるからそれで決めてほしいと言った。
6.Cは2950万円以上は出せない、それ以上なら他の物件を当たると言った。
7.Bは1日、わざと間をあけてAとCに2950万円で取引をまとめた旨報告し、契約成立となった。
さて、この仲介業者Bの行為はAとCがすべてを知っていれば怒るし契約は成立しないものであるが、これは合法である。これを、「不動産屋は信頼できない」、双方代理だから民法に反するというのか、直接交渉してもまとまりにくい話をまとめるための方便であるし社会的にも必要なことだと考えるのか、あなたはどちらの考えに近いだろうか。
現在の日本社会はB的行為を是認して成り立っているが、是認が黙認に、やがては少し問題だとされるようになり、そのうちに制度改革が取りざたされるようになってくるだろう、というのが私の意見である。
Bの仲介行為はさらにその前段にも亘る。Aがその所有地を売りたいと考えいくらで売れるかBに相談していたとしよう。
1.複数の仲介業者B、D、Eそれぞれに査定を依頼し,最も高く値付け(プライシング)したのがBだった。
2.永年の懇意で気心も知れたBに特命で査定させた。
3.Aに知人の業者はなく広告で見たBの所属する会社に電話しただけだった。
4.Bは2900万円で売りにだすよう査定したが、Aは自分の相場観から3000万円で売りに出すよう指示した。
とそれぞれの場合で事情も変わってこよう。3000万円というのが、Bがどの程度近隣の相場を理解して、あるいは関与して付けた値であったのか。
Bの媒介契約が専任媒介契約だったのか、一般媒介契約だったのか。一般媒介なら他の業者にもAは依頼を出していたのか。
これでも極端に単純化した例であり、取引態様や物件の内容についての詳細な交渉はないとしたものである。Bは個人業者なのか、多数の店舗で営業する法人業者なのか、またAと交渉して値付けした担当者と、Cを客付けした担当者は別の支店の者なのか。
これはいわゆる両直(りょうちょく)という場合で、双方代理との関係を考えるため設定したケースであり、売主側業者がB、買い主側業者が別人のDならば双方代理には気にすることはない。しかしその場合はさらに相手側業者の言うことから双方の真意を互いに推測しながら顧客をそれぞれ説得して合意させねばならない。
このように不動産取引は相手、仲介者も含めて心理的駆け引きも含んだ、連続するストーリーである。上記でAはわずかしかまけない設定であるが、内心のところ2900万でも売れればもうけものだと考えていたかもしれない。仲介者に本当の思惑を見せて交渉しているのかどうかはまさに人による。私がAならば、Bたる仲介業者には気心のしれた者を持ってきたいところである。自己責任で取引するにせよ、Bのいう言葉に方便や演出の有無、相場観の意見交換とそのうえでの納得のうえで交渉方針を決めたいからである。しかし対象地がAの居住地から遠く、例えば相続で得た遠隔地の物件を処分する場合のように地元に知己がなく、広告等で信頼できそうな業者を一から選ばなくてはならない状況であったとしたらどうするのか。信頼できるBを探すのに時間をかけるのか、時は金なりで、拙速を尊ぶか。
株や債券のように電話、ネットで瞬時に取引ができるものではなく、個別性の強い不動産の特性から由来する困難性、複雑性、低流動性が感じ取れることと思う。
不動産取引とは、全人格、能力、情報力等をかけた交渉と言えよう。心理戦とも格闘技と言っても過言ではないのである。
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