近畿山間の南北朝、後南朝史跡を廻る
2015/11/04不断斎見聞記
2015年の秋もしだいに深まってきました。先日の紀伊半島山間地訪問のまとめもしたいところです。今回は仕事柄、「奥瀞道路Ⅱ期」を見に行くついでに吉野まで国道169号沿いを廻ったデイ・トリップでした。
新宮市に合併されていますが、熊野川の宮井大橋から、和歌山県の飛び地の村「北山村」に向けての道路がすごく良くなりました。ものすごい高さとスパンの橋で谷を越え、トンネルをつなげています。村の入口で狭くなっているところが残っていますが、取りあえずは画期的改善だと思います。
七色という名前もきれいな辺りから、12年ほど前にできた「不動バイパス」で熊野から吉野地方に抜けていきます。下北山村の上桑原というところに出てきますが、国道169号を10km以上ショートカットする、これも画期的な地域連絡性を向上させた道路です。 ちなみに和歌山県側が北山村、奈良県に入って南側が下北山村、北側が上北山村と続いています。この北山地方といえば、和歌山県の北山村がじゃばらと観光筏や瀞峡の自然が売りですが、奈良側も林業と観光というイメージです。観光資料を見ると、歴史上脚光を浴びるのが、南北朝動乱に入る頃の護良親王の吉野地方潜伏と、南北合一後の後南朝関連史跡、近世に入る頃の北山騒動と時期が固まっています。もちろん大峰山脈の修験道は奈良時代頃からの歴史でしょうが、長年の関心時である中世史跡に立ち寄りながら吉野まで出て帰りました。
寺垣内、村役場の近くですが、戸野兵衛入道良忠の墓があります。鎌倉幕府打倒を目指す後醍醐天皇の皇子、大塔宮護良親王が、元弘2(1332)年春この地に入り、一月余滞在、宣撫した際に供奉したとされます。前年笠置山で捕まった後醍醐天皇が3月に隠岐に流され、諸皇子も流罪、日野資朝、同俊基が斬られた時、この親王は吉野方面に潜伏したという流れです。9月には楠正成が下赤坂城を奪回して抵抗拠点を河内に築く中、護良親王は11月に吉野で挙兵、翌年の怒濤の混乱へと繫がっていく時期にあたります。
戸野良忠はこの地に戻り、前田の地で「時運の到来を待っていたが、親王が殺害さ
れたのを聞き建武3(1336)年3月10日、浦向で殉死」と碑にあります。現代人の感覚では理解しにくいところですが細かいところがわからないので仕方がありません。護良親王は倒幕の功がありましたが、皇子ながら武家の棟梁となることを望み足利尊氏と対立し、建武元(1334)年10月には失脚、鎌倉に引き渡されていました。翌建武2(1335)年、北条高時の遺児時行が挙兵した中先代の乱で、7月に鎌倉防衛に失敗した足利直義が退去の際に親王を殺害していたのでした。戸野の当地駐在の事情や背景はわかりません。近くの正法寺(当時は恵日院)が在所とされます。
次に1世紀ほど空けて北山地区がまた歴史の舞台に登場します。これは上北山村が舞台になります。各地武家の一族内での分裂もあって、また権謀術数の限りをつくし執拗に抵抗した南朝もついに合一となったものの、合一の条件を反故にされたとして、南朝流の子孫の一部は出奔し、抵抗する者が現れます。
嘉吉3(1443)年9月の禁闕の変で、御所に乱入した後南朝一派が三種の神器のうち、剣と神爾を奪い、首謀者らはほとんど討たれ剣は取り返された中で、神爾は秘かにこの地にもたらされていたのでした。それを長禄元(1457)年、嘉吉の変(1441年)で没落した赤松の遺臣が、再興を幕府に認めさせる手柄にと、これを襲撃、曲折はあるものの神爾を奪うのに成功したという事件の舞台となったのです。これを長禄の変と呼ぶのですが、討たれた自天王の屋敷と後埋葬された墓所は、南帝山瀧川寺となっています。
近くには村民が追慕し祀った北山宮もあります。
事件の経過については、相当詳しく案内板に書かれていますが、ドラマチックでスリリング、赤松の遺臣の苦労もそれはそれで大変なものですが、皇統が関係するため、戦前はさぞ悪者扱いされていたと思われます。赤松氏の歴史も人間の宿命とかその中で懸命に戦う姿、当時の武士にとっての忠義のあり方など考えさせてくれます。一応後亀山天皇の子の小倉宮が出奔しその子、空因(金蔵主)らが禁闕の変を起こし、その子自天王と弟河野宮忠義王がこの地方で襲われ奪還されたと理解しておきますが、確定的ではないようです。
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