平安京建設時の補償の話と現代の農地の評価について
2020/05/01コラム
新型コロナウイルスで自粛も続き時間がある。久しぶりに日本史の通読書を読み、見つけたのが平安遷都の際の用地だか稲毛の補償の話である。
桓武天皇は、せっかく長岡京を造営されながら、疫病、凶事が続き早良親王の怨霊を恐れたりなされ、そう離れてもいない葛野郡宇太
村に新らたに遷都を決意された。793(延喜12)年3月巡覧の後、宮城の内に取り込まれる百姓地44町に対して三カ年の価値、収穫の代金を
給することにした、とある。(中央公論社 日本史4 北山茂夫著)
当時の1町が今の1町とどう違うかは問わないとして、総収益の3倍という決め方がはっきりしている。今のような所有権が対象でもあるまい。
班田だったか、墾田後認められた私有地だったか、わからないが、土地そのものは古代においては国有が建前と教わっている。ということは、
土地は替え地を別途賜う、つまり移転させられ、この三年分の補償というか恩寵は既に植えられた稲毛についてのものであったろう。素直に
読めば、来年以降は別の場所をあてがうだけのところ、核心事業であるから奮発しての三年分の収穫金を与えたというなのか、来年のあて
がえ地はすぐに決まらないから、余裕を見て三年分だったかもしれない。田、畑、屋敷地、池沼、畦等の区別もわからないが、考え方が参考になる。
土地の用益権だか稲毛の補償だったかにかかわらず、考え方として総収益の何倍だったというところに興味を感じた。
現在、私達は農地の評価も行うことがある。不動産鑑定士の独占業務にはなっていないが、用地買収、課税、個人の資産評価の必要等で
避けることはできないから、誰かがやらなければならない仕事で、社会から付託を受けているのが、私達である。
現代における農地の所有権が対象の話になるのだが、先人の努力の蓄積から、実務的には取引事例比較法でほぼ決定される。できれば収益方式も
適用した方が精度も高まるし、信頼を得やすくなるが、たいていの場合は、適用せずに済ませれている。
純収益の把握が難しく、あるいは今時農地に純収益はない?的な状況も影響しているのだろう。宅地にするのが合理的で実現性もある場合は
開発を想定して宅地の価格から算定することもあるが。
収益方式というのは、果実としての収益を求めてある利回りで割れば元本たる収益価格が得られる、という考え方に立つ。
この収益を、純収益、すなわち総収益から通常の経費を引いた残りとして求め、統計的もしくは実務上認められ、適正と認識されている利回り、
還元利回りで割るというやり方が、最も単純だが利用されている方式である。宅地であれば、もっと多様かつ精緻な手法が発達している。しかし
農地となると、適用不能で片付けられることが多い。これを、どういう収益を還元するかで、利回りも異なるから、総収益を還元してもいいだろう、
それに応じた利回りを用いればいいではないか、それなら農地でも適用できないか、と思っていたのである。
なぜ総収益還元法が広まらないかというと、総収益といっても栽培する品種や個別の圃場と栽培者の技術、労働の投入量で違いが大きく、
また変動があり、利回りを個別に決めなくてはならないからだろう、と考えられるが、水田ならその地域で標準的な品種、収量を考えればよいから、
標準化と個別調整で可能なはずである。これはどうも単純になり過ぎるからとか、説得性や体裁を意識した問題ではないかと思っていたのである。
農地の場合は、シンプルに考えてもいいのではないだろうか。
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