マンションの価格、たとえば年収倍率はどのように決まるのか
2023/12/07コラム
今年最後の海外活動で台湾を11月に訪れた。本土大都市ほどではないが、台北のマンションもチラシを見る限り、一般の給料に比べて高すぎないかと感じた。都心の安そうなホテルに三泊したのだが、こういうことを考える機会になった。
地下鉄、こちらでは台北捷運(MRT)、このうち市内中心部を東西に走る板南線は、路線図では青いラインで描かれており、東京の東西線に合わさっている。台北駅から四つ目「忠孝敦化」駅を真上に出ての大通り「忠孝東路」沿いではある。廻りにはデパートにコンビニ、商店が建ち並んでいて、ビルの高さもほどほどで揃っている。泊まったホテルは商業ビルの11階、中層階はソーシャル系飲食店も入っている、のワンフロアをホテルにして20数室だけビジネスホテルにしているのだが、窓がない部屋だった。日本の建築基準法では認められないんじゃないか。
つまりフロントにいるオーナーらしき人物にしてみれば、日本より安いコストでホテルを経営できると思う。法律でビジネス環境は変わる。今回三泊で日本円で26000円ほど、レートはネットで1台湾ドル4.72円。桃園国際空港から台北駅まで空港快速、機場捷運が150ドル、板南線が4駅で25ドルである。機場線は50km以上を快速で35分程度、普通で50分くらいだから安い、MRTもまぁ安いという印象である。
今回の出張は、この板南線の東の終点「南港展覧館」へ3日通って、夜は飲みに行くという、至ってシンプルなものであるが、そんなにご当地の勤め人の給料が高いというわけでもないということはわかっている。それに比較してマンションの値段の高さは異常で、これは中華圏共通なのかと訝しがってしまった。
朝ホテル近くで不動産のチラシを配る婦人にもらったチラシに、この近所の物件のものがあった。最寄駅は同じだが、築年数、階層はわからない。上海と同じで共用部分の面積も入ってとすれば、どんなに新しくても納得しない価格である。「公設比低」とは、共用部分の面積比率が小さいと私は解釈した。1㎡169万円相当の1Kである。(左下)とは言え、比べるな、というのが外国のものを見たとき、自分に言い聞かせている言葉ではある。それぞれの環境でみんな生活している。細かい価格は比べても意味はない。そんなことより、どうやってこういう価格ができあがって、そのうち、あるいは、もうどこかのように崩れかけているかもしれないが、価格は人々に通じる、あるいは納得させているのだろうか。
不動産鑑定士になるため覚えさせられた理論では、コスト、相場、収益力の三面性で価格は決まる。理論ではそうだが、市場での相場が強いに決まっていて、これを抑えるために地価高騰の昔、不動産鑑定制度が作られた面が大きいと理解している。ならばその相場は需給関係で形成されるというのは、株でも貴金属、野菜でも同じで、その対象となるのが、すべての人の経済活動、いやそれ以上に広い人間のあらゆる活動の基盤である公共性の強い財である土地あるいは建物、すなわち不動産であるから、何とか適正にコントロールしないといけないというわけである。自然に任せていると急騰と暴落で人々が苦しむ。
日頃からも思うが、さっきのビジネスホテルのように何が建てられるか等の法的規制の影響が大きい。税制もそうだ。ローンが組めるかもまた大きい。金融の問題である。その他様々な要素が、市場環境としてまずあって、その中での需給競争となるのだと思う。かつて、1980年代後半の日本で、まともに働いても一生家が買えないとか騒いで、バブルを潰したわけであるが、その頃を思い出すと、年収の5倍くらいで家が買えるべきだという論調があった。その年収といのが、どの層の人のことか、はっきりした定義づけなどなかったと思う。中流、まともな勤め人で、という程度の意識だったろう。たしか10倍~20番あたりで世論が燃えあがって、社会感情で潰した部分が大きいと思っている。後で引き締めを緩めるのが遅れたと、当時の日銀総裁を非難する論者もいるが、当時はそれを支持する者も多かった。では上手に金利を下げたり、税制、金融を緩和していたら、日本は長期停滞が続かなかったのか、それが正解で、半導体産業を日本が守れたのか、そんな甘いものではなかったろうと、今となって回想するのである。
まず、日本には比較的高い相続税と、比較的高い累進所得税、そしてバブル潰しで引き上げた不動産譲渡所得税がある。台湾の相続税は一律10%、シンガポールに相続税や贈与税はない。もし日本がそういう資産保有への課税を緩和すれば、不動産価格の年収倍率という曖昧なレートは他の東アジア諸国同様跳ね上がるはずである。フラット35などという恐ろしい住宅ローンが日本にはあるが、あれは確実に日本の不動産価格を引き上げたはずである。そう、需要者に貸せる金の水準で相場が決まるともいえる。もしローンは20年までだったら、さらに地価は下がっていたろうし、元本据置で金利だけ払っていたらいい、みたいな融資が比較的簡単に認められている状態なら、もっと地価はあがって、マンションは年収の20倍以上になっていたに相違ない。これは韓国あたりがそういう雰囲気ではないかと窺われる。
結局、そういう「環境」で地価やマンション価格は、大枠をはめられているのではないかと、私は思っている。親、親族の金を集めて家を買わねばならないような社会を日本的正義、、常識は許さないわけで、今の日本の不動産価格は、落ち着くところに落ち着いているのださえ言えると思う。他の国のことはあまりとやかく言えないが、家を買わないと所帯を持てないというような意識は、そろそろやめた方がいいと思う。
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